オーバーツーリズムについて

近年、観光地はかつてないほどの賑わいを見せています。しかし、その裏で「オーバーツーリズム」という問題が深刻化しているのをご存知でしょうか? オーバーツーリズムとは、単に観光客が多いというだけでなく、地域住民の生活、環境、文化に負の影響を与える状態を指します。

オーバーツーリズムとは何か?

世界観光機関(UNWTO)は、オーバーツーリズムを明確に定義していませんが、持続可能な観光の文脈において、観光客の増加が地域のインフラ、環境、社会構造に過度の負荷をかけ、許容範囲を超えてしまう状況として認識されています。具体的には、以下のような問題が挙げられます。

  • インフラへの負荷: 交通機関や宿泊施設の混雑、ゴミ処理の問題など
  • 観光ジェントリフィケーション: 観光客向けの商業施設が増加し、地域住民の生活に必要な商店が減少し、住宅価格が高騰するなど
  • 文化的な摩擦: 観光客のマナーの問題や、伝統文化の商業化など

これらの問題は、地域住民の生活の質を低下させるだけでなく、観光客自身の満足度も低下させる可能性があります。

オーバーツーリズムはどのようにして起きたのか?

観光の大衆化は、第二次世界大戦後の経済成長と技術革新によって加速しました。航空機の低価格化や旅行商品の多様化により、誰もが気軽に旅行を楽しめる時代になったのです。

世界観光機関(UNWTO)のデータによると、1950年には約2500万人だった国際観光客到着数は、2018年には14億人に達しました。これは、わずか70年足らずの間に56倍にも増加したことを意味します。特に、アジア太平洋地域は目覚ましい経済成長を遂げ、観光客の増加率も他の地域を上回っています。

近年では、SNSの普及やLCC(格安航空会社)の台頭が、オーバーツーリズムをさらに深刻化させています。SNSで話題になった場所には観光客が殺到し、LCCの利用でより多くの人々が気軽に旅行を楽しめるようになったからです。

例えば、以下のような事例は、オーバーツーリズムの典型的な問題を示しています。

  • ベネチア、バルセロナ: 住宅価格の高騰、コミュニティの崩壊
  • タイ、ピピ・レ島マヤベイ: 環境破壊による閉鎖(映画「ザ・ビーチ」の舞台)

オーバーツーリズムの主要な論点

オーバーツーリズムの問題を構造的に理解するためには、以下の3つの主要な論点に着目する必要があります。

  1. 観光客の爆発的な増加: 観光客の数は年々増加しており、その勢いは衰えることを知りません。
  2. 観光行動の変化: SNSの普及により、観光客はより手軽に情報を入手し、ニッチな場所や穴場スポットを訪れるようになりました。また、シェアリングエコノミー(Airbnbなど)の利用も増加し、地域住民との交流が希薄になる傾向があります。Airbnbのようなプラットフォームは、旅行者に新たな選択肢を提供する一方で、宿泊施設の供給過多や地域住民の住居不足を引き起こす可能性も指摘されています。
  3. 環境収容力超過: 観光地の環境が、観光客を受け入れることができる限界を超えてしまっています。環境収容力には、物理的収容力(観光施設の許容人数)、生態的収容力(自然環境の許容範囲)、社会・心理的収容力(地域住民の受容度)、経済的収容力(経済効果の持続可能性)など、様々な側面があります。

オーバーツーリズムの社会的影響

オーバーツーリズムは、地域住民と観光客の双方に影響を与えます。

地域住民への影響:

  • 生活の質の低下(騒音、混雑、プライバシーの侵害)
  • 住宅問題(住宅価格の高騰、賃貸物件の減少)
  • 文化変容(伝統文化の商業化、地域文化の喪失)
  • 経済的偏在(観光関連産業のみが潤い、地域経済のバランスが崩れる)

観光客への影響:

  • 混雑による不快感
  • 満足度の低下(期待していた体験が得られない)
  • authenticity(本物らしさ)の喪失(観光地化された場所での体験は、本来の文化や自然とは異なる)

オーバーツーリズムは、地域住民と観光客の関係を悪化させる可能性もあります。地域住民は観光客を歓迎する気持ちを失い、観光客は地域住民との間に壁を感じてしまうかもしれません。

より良い未来のために

オーバーツーリズムの問題を解決するためには、地域住民と観光客がお互いを尊重し、理解することが不可欠です。地域住民は観光客を受け入れる寛容さを持ち、観光客は地域住民の生活や文化に配慮する必要があります。

テクノロジーは、オーバーツーリズムの解決に役立つ可能性も秘めています。例えば、AIを活用した観光客の分散化や、VR/ARを活用したバーチャル観光体験の提供などが考えられます。

オーバーツーリズムは、私たち一人ひとりが真剣に向き合うべき問題です。持続可能な観光を実現するために、今こそ行動を起こすべき時です。

Scroll to Top