現代の金融システムには、私たちの目には見えにくいものの、ほとんどすべての経済活動の裏側でひそかに働いている「基準点」があります。それが「リスクフリーレート」です。
この概念は、投資判断や企業評価だけでなく、国家の金融政策にも深く関わっています。とくに、世界的な金利指標改革が進み、LIBORから各通貨ごとのリスクフリーレート(RFR)へと移行してきた現在、リスクフリーレートを理解することは、金融を専門的に学ぶ人だけでなく、大学生やビジネスパーソンにとっても重要な視点になりつつあります。
リスクフリーレートとは何か、なぜ金融の「基準点」になるのか、そして金利指標改革の中でどのような役割を担っているのかを、できるだけイメージしやすい形で整理していきます。
記事のポイントとして、まず、理論上の「無リスク」という考え方と、現実の金融市場で「ほぼ無リスク」とみなされる国債利回りとの関係を押さえます。金融実務では、このギャップをどう扱っているのかが重要な視点になります。
次に、リスクフリーレートが投資の最低限の期待リターンや、企業の株主資本コスト、プロジェクト評価の割引率などの「物差し」として、どのように使われているのかを見ていきます。CAPMとリスクプレミアムの関係もここで整理します。
最後に、LIBORの廃止と各国のRFR(TONAR、SOFR、€STR、SONIA、SARONなど)への移行が、金融取引の透明性や安定性にどのような影響を与えているのか、そしてその過程で生じている実務上の課題についても触れていきます。
金融世界の「中心軸」:リスクフリーレートとは何か
リスクフリーレート(Risk Free Rate, RFR)は、理論上「リスクが一切ない金融商品から得られる利回り」と定義されます。ただし、現実には「完全にリスクがゼロ」の金融商品は存在しません。どれほど信用度の高い国でも、ソブリン・デフォルト(国家が債務不履行に陥ること)の可能性を完全に排除することはできないからです。
そのため、実務では「現実に手に入るなかで、もっともリスクが小さい金融商品」の利回りを、リスクフリーレートの近似として使います。代表的なのが、各国政府が発行する国債です。国家は徴税権や通貨発行権を持ち、民間企業よりもはるかに高い信用力を持つと考えられているため、主要先進国の国債は「元本と利息がほぼ確実に支払われる」とみなされます。この「ほぼ確実」という性質が、リスクフリーレートの代理として採用される理由です。
日本では市場での取引が活発で、長期の指標としてよく使われるのが「10年物日本国債」の利回りです。多くの企業の投資期間や事業計画と整合しやすく、長期金利の代表とされます。アメリカでは、米国財務省証券(U.S. Treasuries)、とくに10年物を中心とした長期国債の利回りが同様の役割を担っています。米国の国債市場は世界でもっとも流動性が高く、世界中の投資家が基準として参照しています。ユーロ圏では、ドイツ国債の利回りが、域内の長期金利のベンチマークとして広く利用されています。
これらの国債の利回りは、金融市場における「ほぼ無リスク資産」の代表として位置づけられ、他の資産の評価や価格決定の出発点になります。銀行預金や、信用力の高い金融機関が発行する短期金融商品(無担保コールレートやコマーシャルペーパーなど)も、信用リスクはあるものの比較的低リスクとみなされ、リスクフリーレートの周辺に位置づけられます。
リスクフリーレートを理解することは、複雑な金融商品を評価するときの基準を理解することでもあります。値動きの大きい株式や社債、不動産、デリバティブなどを評価するときも、結局は「リスクを取らなかった場合に得られたはずの利回り」が、比較の起点になるからです。
なぜリスクフリーレートは金融の礎なのか:投資と企業評価の基準点
リスクフリーレートは、単なる金利の一種ではなく、投資や企業評価全体の「基準線」のような役割を果たします。
投資家の立場から見ると、リスクフリーレートは「リスクを取らずに得られる最低限の期待リターン」です。たとえば、安全性の高い資産に預けておけば年率2%で増えるとします。このとき、1年後に確実に2%増える選択肢がすでに存在していることになります。ここからわざわざ、値下がりのリスクを負って株式や社債に投資するのであれば、その投資から期待できるリターンは、少なくとも2%を上回っている必要があります。そうでなければ、合理的に考えてリスクを取る意味がありません。
この考え方から出てくるのが「リスクプレミアム」です。リスクプレミアムとは、リスクを伴う投資の期待リターンから、リスクフリーレートを差し引いた部分です。たとえば、ある株式投資の期待リターンが7%で、同じ通貨のリスクフリーレートが2%であれば、リスクプレミアムは5%です。この5%が、投資家がリスクを負うことに対して求める「上乗せの報酬」です。
リスクプレミアムが大きい資産ほど、価格変動が大きくリスクも高い一方、それに見合う高いリターンを期待することになります。株式、ハイイールド債、不動産などは一般にリスクプレミアムが大きく、信用度の高い社債や国債に近いものほどリスクプレミアムは小さくなります。景気や金融政策の変化によって、各資産クラスのリスクプレミアムも変動します。
さらに、リスクフリーレートは企業評価にも直接関わっています。将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて企業価値を求めるDCF(Discounted Cash Flow)分析では、「割引率」をどう設定するかが非常に重要です。この割引率を決める際によく使われるのが、CAPM(Capital Asset Pricing Model、資本資産価格モデル)です。
CAPMでは、株主が株式投資から期待するリターン(株主資本コスト)を、次の式で表します。
株主資本コスト = リスクフリーレート + β(ベータ) × マーケットリスクプレミアム
ここでベータ(β)は、その企業の株価が市場全体に比べてどれくらい敏感に動くかを表す指標です。マーケットリスクプレミアムは、市場全体(たとえば株価指数)への投資から期待されるリターンと、リスクフリーレートの差です。
この株主資本コストは、M&Aにおける企業価値評価や、新規事業や設備投資の採算性を判断する際の割引率として使われます。リスクフリーレートが1%上がれば、同じベータとマーケットリスクプレミアムを前提とした株主資本コストも1%上がります。すると、将来キャッシュフローをより高い割引率で割り引くことになるため、現在価値としての企業価値は下がります。つまり、リスクフリーレートの変化は、企業価値や投資判断に直接の影響を与えます。
また、アーヴィング・フィッシャーの「フィッシャー方程式」は、名目リスクフリーレートが単なる数字ではなく、経済環境と密接に結びついていることを示します。名目金利 i、実質金利 r、期待インフレ率 π を用いると、
1 + i ≒ (1 + r) × (1 + π)
という関係が成り立ち、インフレ率が比較的低いときは「名目金利 ≒ 実質金利 + 期待インフレ率」と近似できます。ここでの名目金利として、リスクフリーレートに近い国債利回りなどを考えることができます。
インフレ期待が高まれば、将来の貨幣価値が目減りすると考えられるため、投資家はその分を補うだけの名目利回りを求めます。その結果、リスクフリーレートも上昇しやすくなります。つまり、リスクフリーレートは、実質的な時間価値とインフレ期待の両方を反映した存在であり、経済環境の変化を映し出す重要な指標です。
金利指標改革とリスクフリーレートの新しい位置づけ
国際金融市場では、ここ十数年にわたり、金利指標の大きな見直しが進んできました。その中心にあったのが、LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)から、各通貨ごとのリスクフリーレート(RFR)への移行です。
LIBORは1980年代以降、ローン、デリバティブ、住宅ローン、社債など、数兆ドル規模の金融商品の金利設定に使われてきました。ところが、2008年の金融危機以降、「銀行間の無担保短期資金貸借市場」の実取引が大きく減少し、LIBORの算出が、実際の取引ではなく銀行の自己申告に依存する度合いが高まりました。そのうえ、2012年には一部の銀行がLIBORを不正に操作していたことが発覚し、指標としての信頼は大きく損なわれました。
こうした問題を受けて、金融安定理事会(FSB)などの国際的な規制当局は、LIBORに依存しない、より堅牢な指標への移行を進めました。その際のキーワードが「リスクフリーレート(RFR)」です。ここでのRFRは、各通貨ごとの「オーバーナイトの短期金利」であり、できるだけ実取引データに基づいた、銀行の信用リスクや期間プレミアムの影響が小さい指標として設計されています。
各通貨圏で選ばれた代表的なRFRは次のとおりです。
- 日本円:TONAR(Tokyo Overnight Average Rate、無担保コール翌日物・平均レート)
- 米ドル:SOFR(Secured Overnight Financing Rate、米国債を担保とした翌日物レポレート)
- ユーロ:€STR(Euro Short-Term Rate、ユーロ圏銀行の無担保翌日物調達コスト)
- 英ポンド:SONIA(Sterling Overnight Index Average、ポンド建て無担保翌日物レート)
- スイスフラン:SARON(Swiss Average Rate Overnight、スイスフラン建て有担保翌日物レポレート)
日本銀行は、TONARを日本円の代表的なリスクフリーレートとして位置づけています。TONARは無担保の翌日物コール市場における実際の取引を基に算出され、取引量も十分にあり、日々公表されています。米国では、ニューヨーク連銀がSOFRを公表しており、米国債を担保にしたレポ取引を幅広くカバーしているため、LIBORよりも実需に近い金利とされています。ユーロ圏ではECBが€STRを公表し、ユーロ圏の銀行が無担保で資金を調達する際の翌日物金利を反映するよう設計されています。英国では、イングランド銀行がSONIAを運営し、ポンド建て市場における代表的なリスクフリーレートとなっています。スイスフランでは、SIXグループとスイス国立銀行の枠組みのもと、SARONがCHF LIBORの代替レートとして採用されました。
これらのRFRは、LIBORと異なり、実際の取引データをベースとし、期間は基本的に翌日物に限定されています。そのため、「完全な無リスク」とまでは言えないものの、銀行の信用リスクや恣意的な裁量の影響をかなり小さく抑えた「リスクフリーに近い指標」として扱われます。
RFRへの移行は、単に金利の名前が変わっただけではありません。既存のローン契約やデリバティブ契約の多くがLIBORを参照していたため、それらをRFRベースに切り替える作業が必要になりました。この際、LIBORには銀行信用リスクなどが含まれていたのに対し、RFRにはそれがほとんど含まれていないため、その差を調整する「スプレッド調整」が論点になりました。契約当事者の経済的条件が大きく変わらないように調整することが重要だったからです。
また、市場の流動性という観点でも課題がありました。LIBORは長年使われてきたため、膨大な残高がありましたが、新しいRFRベースの取引は、当初は残高も取引量も限られていました。各国の規制当局や業界団体は、デリバティブやローン、社債などでRFRを積極的に使う「RFRファースト」のような取り組みを進め、市場の標準を徐々にシフトさせてきました。
その結果、現在では、主要通貨のLIBORはほぼすべて停止され、RFRがグローバルな基準金利としての役割を担うようになっています。RFRは、透明性が高く、実取引に基づく指標であることから、金融システム全体の安定性を高めるための重要な基盤と位置づけられています。
リスクフリーレートが抱える課題と経済環境との関係
リスクフリーレートは金融の基盤ですが、万能な指標ではありません。理論と現実のずれや、実務上の扱い方など、いくつかの課題があります。
まず、そもそも「完全に無リスクな資産は存在しない」という根本的な問題があります。先進国の国債であっても、非常に低いとはいえ、ソブリン・デフォルトの可能性はゼロではありません。また、インフレ率が大きく変動する局面では、名目金利だけでは投資家の実質的な損得を十分に説明できないこともあります。理論上は「リスクゼロ」として扱っていても、現実には「かなり小さいリスクを含んでいる」という前提を忘れないことが大切です。
次に、どの満期の国債利回りをリスクフリーレートとして採用するかという問題があります。短期投資やキャッシュマネジメントを評価するときに10年国債の利回りを使うと、期間のミスマッチが生じます。逆に、長期プロジェクトの評価に、極端に短期の金利を使うのも適切とは言えません。そのため、評価対象の期間に合わせて、短期金利、5年、10年といった、適切な満期の国債利回りを選ぶ必要があります。
LIBOR改革に伴うRFRへの移行でも、新たな課題が生まれました。オーバーナイトのRFRそのものは翌日物金利ですが、実務では1カ月物、3カ月物などの「期間金利」が必要です。そこで、RFRを複利で積み上げて期間平均をとる「複利後決め(in arrears)」の仕組みや、一部では先に決まるタームRFRも整備されています。ただし、利払い額が期間終了まで確定しないなど、これまでのLIBORベースの慣行とは異なる点も多く、システム対応や契約文言の整備が必要になりました。
さらに、リスクフリーレートは、インフレや成長率、金融政策とも強く結びついています。景気が過熱し、インフレ率やインフレ期待が高まると、国債利回りやRFRも上昇しやすくなります。逆に、景気後退やデフレ圧力が強い局面では、短期金利を中心にリスクフリーレートが低下します。
中央銀行の政策金利も、短期のリスクフリーレートに直接関わります。政策金利の引き上げは、銀行間市場の短期金利を押し上げ、その延長線上にあるRFRにも影響を与えます。日本やユーロ圏では、長期間にわたりゼロ金利・マイナス金利政策がとられたことがあり、その間は短期のリスクフリーレートも極めて低い水準に抑えられました。一方で、量的緩和や長期国債の買い入れなどは、長期の国債利回りを通じて、長期のリスクフリーレートに影響を与えます。
このように、リスクフリーレートは「与えられた定数」ではなく、インフレ、成長率、金融政策、国際資本移動など、多くの要因の組み合わせで変動する指標です。金融を学ぶうえでは、単なる入力値として扱うだけでなく、「なぜその水準になっているのか」を考えることが、より深い理解につながります。
リスクフリーレートの実務への応用と学びの視点
リスクフリーレートは、金融の専門用語のように見えますが、実際には私たちの生活や社会制度のあちこちに影響を与えています。
企業の世界では、M&Aや新規事業投資の判断にDCF分析が広く使われています。買収対象企業が将来生み出すキャッシュフローを現在価値に割り引くとき、割引率の中心となるのが株主資本コストであり、その土台にリスクフリーレートがあります。リスクフリーレートが上昇すれば、同じキャッシュフローでも現在価値は低くなり、逆にリスクフリーレートが低ければ、企業価値は高くなりやすくなります。これは、債券価格や不動産価格にも同じように当てはまる考え方です。
個人投資家や機関投資家にとっても、ポートフォリオ構築の出発点はリスクフリーレートです。どれだけリスクを取るのか、どれだけリターンを目指すのかを考えるとき、「何もしないで安全資産に置いておいた場合のリターン」が基準になります。リスクフリーレートを下回る期待リターンしかない投資対象であれば、理論的には選択する理由がほとんどありません。
また、シャープレシオやトレイナー比率といったパフォーマンス指標も、リスクフリーレートを基準にして「どれだけリスク当たりの超過リターンを得られたか」を評価します。つまり、リスクフリーレートは、投資成績を比較するときの「出発点」としても機能しています。
一見すると金融とは離れているように見える分野でも、リスクフリーレートは重要です。保険会社が将来の保険金支払いに備えて積み立てる保険負債の評価、年金基金が将来の年金給付義務を現在価値に直す計算などでは、将来の支払いをどの金利で割り引くかが重要な論点になります。ここでも、長期のリスクフリーレートが基準となることが多く、金融市場の長期金利の動きが、保険料や年金制度の持続可能性に影響を与えます。
デリバティブの世界でも、リスクフリーレートは欠かせません。金利スワップやオプションなどの理論価格を求める際には、将来のキャッシュフローをリスクフリーレートで割り引くのが基本です。LIBORからRFRへの移行によって、こうしたプライシングモデルの前提も見直され、実務では割引曲線の構築方法が変わりました。
今後を見据えると、RFRはますます標準的なベンチマークとして定着していきます。一方で、インフレの変動や各国の金融政策の違い、気候変動リスクや地政学リスクなど、新しい要素もリスクフリーレートの水準に影響を与えます。また、フィンテックやブロックチェーン技術の進展により、新しい形の金融商品や市場構造が生まれる可能性もあります。そのときにも、最終的にリスクとリターンを評価する基準として、何らかの「リスクフリーに近い金利」が必要になることは変わらないはずです。
大学生にとって、リスクフリーレートを理解することは、金融業界に進むかどうかに関わらず、「お金の時間価値」と「リスクとリターンの関係」を考えるための基礎体力づくりになります。ビジネスパーソンにとっても、金利環境の変化が自社の資金調達コストや投資案件の採算性にどう影響するのかを理解するうえで、非常に役立つ視点です。
派手なキーワードではありませんが、リスクフリーレートという「見えない基準点」を意識できるようになると、ニュースで流れる金利動向や中央銀行の会見内容が、以前より立体的に見えてきます。そこから先の応用は、投資、企業経営、公共政策など、さまざまな分野に広がっていきます。
FAQ
Q: リスクフリーレート(RFR)とは何ですか?
A: 理論上は「リスクが一切ない金融商品から得られる利回り」です。ただし、現実には完全に無リスクな資産は存在しないため、実務では「入手可能ななかで、もっともリスクが小さい資産」の利回りを近似値として使います。具体的には、主要先進国の政府が発行する国債(10年物日本国債、米国財務省証券、ドイツ国債など)の利回りが代表的です。
Q: なぜ国債の利回りがリスクフリーレートの代理として使われるのですか?
A: 国家は徴税権や通貨発行権を持っており、一般的に民間企業より信用力が高いとみなされます。そのため、主要先進国の国債は「元本と利息がほぼ確実に支払われる」と期待され、他の投資を評価するときの基準として使われます。完全な無リスクではありませんが、現実的に考えたときの「もっともリスクの小さい選択肢」として扱われています。
Q: リスクフリーレートが変動すると、私たちの投資や企業の評価にどのような影響がありますか?
A: リスクフリーレートは、投資判断における「最低限の期待リターン」であり、株主資本コストや割引率の基礎になります。リスクフリーレートが上昇すれば、株式やプロジェクト投資に求められる期待リターンも上がり、その結果として企業価値の評価が下がったり、投資案件の採算性が厳しくなったりします。逆に、リスクフリーレートが低下すれば、同じキャッシュフローでも現在価値は高くなりやすくなります。
Q: LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)が廃止され、リスクフリーレート(RFR)に移行した主な理由は何ですか?
A: 主な理由は二つあります。第一に、LIBORの算出根拠となる「銀行間の無担保短期資金貸借市場」の実取引が金融危機以降減少し、自己申告への依存度が高まって、市場実勢を十分に反映しなくなったことです。第二に、一部銀行による不正操作が発覚し、指標としての信頼性が損なわれたことです。これを受けて、実取引データに基づくRFRへの移行が国際的な方向性として定着しました。
Q: 新しいリスクフリーレート(RFR)に移行することで、金融市場はどのように変わりましたか?
A: RFRは、実際の取引データをベースとしたオーバーナイト金利であり、恣意的な裁量の余地が小さくなっています。その結果、金利指標としての透明性と堅牢性が高まりました。一方で、LIBORに含まれていた銀行信用リスクや期間プレミアムがRFRにはほとんど含まれていないため、スプレッド調整や契約文言の見直しなど、移行に伴う実務上の対応も必要になりました。
Q: 「リスクプレミアム」とは何ですか?なぜ投資において重要なのでしょうか?
A: リスクプレミアムとは、リスクのある投資の期待リターンから、リスクフリーレートを差し引いた差額です。これは、投資家がリスクを負うことに対して求める「上乗せ分のリターン」を意味します。リスクプレミアムを意識することで、投資家は自分が取っているリスクに対して、見合った報酬が期待できているかどうかを判断できます。
Q: リスクフリーレートを理解することは、個人の資産形成にどう役立ちますか?
A: リスクフリーレートは「何もしなかった場合」に得られる利回りの目安になるため、投資の判断基準として役立ちます。新しい投資先を検討するとき、期待リターンがリスクフリーレートを明確に上回っているかどうかを考えることで、過度にリスクの高い商品を避けたり、割に合わない投資を見分けたりしやすくなります。
アクティブリコール
基本理解問題
- リスクフリーレートの理論上の定義と、現実世界でその代理として広く使われる金融商品を具体的に挙げてください。
答え: 理論上の定義は「リスクが一切ない金融商品から得られる利回り」です。現実世界では、主要先進国の政府が発行する国債(例:10年物日本国債、米国財務省証券、ドイツ国債)の利回りが、リスクフリーレートの近似として広く使われます。 - 「リスクプレミアム」とは何か、リスクフリーレートとの関係性を含めて説明してください。
答え: リスクプレミアムとは、リスクのある投資の期待リターンからリスクフリーレートを差し引いた差額です。これは、投資家がリスクを引き受けることに対して求める追加的な報酬を表します。 - 「フィッシャー方程式」が示す、名目リスクフリーレートを構成する二つの主要な要素は何ですか。
答え: 実質金利と期待インフレ率です。名目金利は、おおまかに「実質金利 + 期待インフレ率」と近似できます。 - LIBORが廃止されることになった主な理由を二つ挙げてください。
答え: 一つ目は、LIBORの算出根拠となる無担保銀行間市場の実取引が減少し、市場実勢を十分に反映しなくなったことです。二つ目は、一部銀行による不正操作が発覚し、指標としての信頼性が損なわれたことです。
応用問題
- 企業がM&Aの際に買収対象企業の価値を評価するとき、「株主資本コスト」の算出にリスクフリーレートがどのように組み込まれますか。その計算モデルの名称と数式を挙げてください。
答え: 株主資本コストは、CAPM(Capital Asset Pricing Model:資本資産価格モデル)で計算されます。数式は
「株主資本コスト = リスクフリーレート + β(ベータ) × マーケットリスクプレミアム」です。 - インフレ期待が高まった場合、リスクフリーレートは上昇しますか、それとも低下しますか?その理由も説明してください。
答え: 一般には上昇します。インフレ期待が高まると将来の貨幣価値が目減りすると考えられるため、投資家はその分を補うだけの名目利回りを求めるからです。フィッシャー方程式に従えば、期待インフレ率が高まるほど、名目金利(リスクフリーレートを含む)は上がりやすくなります。 - LIBORに代わる主要なリスクフリーレート(RFR)を、日本、米国、ユーロ圏、英国のそれぞれについて具体的に挙げてください。
答え: 日本:TONAR(Tokyo Overnight Average Rate)、米国:SOFR(Secured Overnight Financing Rate)、ユーロ圏:€STR(Euro Short-Term Rate)、英国:SONIA(Sterling Overnight Index Average)です。 - 投資家がリスクフリーレートを上回るリターンを期待できない投資案件に投資すべきではないのはなぜですか。
答え: リスクフリーレートは、リスクを取らずに得られる最低限の期待リターンです。それを下回る期待リターンしかないリスク資産に投資すると、「リスクを取らない方が合理的」という状況になるため、理にかなった選択とは言えません。
批判的思考問題
- リスクフリーレートは「完全な無リスク」を理論上の概念とする一方で、現実には「入手可能な最小リスク」を用いています。この理論と現実のギャップが金融市場の理解にどのような影響を与えると考えられますか。
答え: このギャップを意識することで、「リスクゼロ」という言葉が実務上は便宜的な前提であることが見えてきます。国債の信用度が揺らいだり、インフレが大きく変動したりした場合、「リスクフリー」とされていたものの前提が崩れる可能性があります。そのため、モデルで使うリスクフリーレートが、現実世界ではどういう前提のもとで成り立っているかを考えることが重要になります。 - RFRへの移行に伴い、従来のLIBOR参照契約をRFR参照契約に切り替える際に「スプレッド調整」が必要となるのはなぜですか。
答え: LIBORには銀行信用リスクや期間プレミアムが含まれていましたが、RFRはオーバーナイト金利であり、それらの要素をほとんど含みません。そのため、そのまま置き換えると、借り手や貸し手のどちらかに一方的に有利・不利が生じてしまいます。既存契約の経済条件をできるだけ維持するため、両者の水準差を補うスプレッド調整が必要になります。 - 中央銀行の金融政策がリスクフリーレートに与える影響について、具体的な政策手段(例:政策金利の変更、量的緩和)を挙げて、そのメカニズムを考察してください。
答え: 政策金利の引き上げは、銀行間の短期金利を押し上げ、RFRのようなオーバーナイト金利も上昇させます。逆に、利下げは短期のリスクフリーレートを低下させます。量的緩和のように中央銀行が長期国債を大量に購入すると、長期国債の利回りが下がり、長期のリスクフリーレートも低下します。こうした動きを通じて、企業の資金調達コストや投資家の期待リターンが変化し、最終的には設備投資や雇用、消費など、実体経済にも影響が及びます。

小学生のとき真冬の釣り堀に続けて2回落ちたことがあります。釣れた魚の数より落ちた回数の方が多いです。
テクノロジーの発展によってわたしたち個人の創作活動の幅と深さがどういった過程をたどって拡がり、それが世の中にどんな変化をもたらすのか、ということについて興味があって文章を書いています。その延長で個人創作者をサポートする活動をおこなっています。