『世界秩序が変わるとき』(齋藤ジン・著)——本の宇宙旅行

書籍基本情報

項目内容
書名世界秩序が変わるとき 新自由主義からのゲームチェンジ
著者齋藤 ジン
出版社文藝春秋
刊行年2024年12月17日
ISBN978-4-16-661478-3
ページ数256ページ
価格1,155円(税込)
ジャンルノンフィクション、経済、国際情勢
入手可能フォーマット新書、電子書籍
購入リンク文藝春秋BOOKShonto丸善ジュンク堂書店紀伊國屋書店

書籍の紹介

本書『世界秩序が変わるとき』は、在米の投資コンサルタントである齋藤ジン氏による初の著書です24。著者は、ジョージ・ソロスといった世界的な投資家を顧客に持ち、ヘッジファンドに対して各国の経済政策分析を提供するなど、長年金融の最前線で活躍してきた人物です25。本書は、その経験と知見に基づき、現代世界が直面している歴史的な転換点を鮮やかに描き出しています。

中心的な主張は、「東西冷戦後の世界を支えてきた新自由主義が崩壊し、勝者と敗者が入れ替わる”ゲームチェンジ”が起きている」というものです26。そして、この地殻変動は、日本にとって「数十年に一度のチャンス」をもたらすと著者は断言します27。米中対立の激化を背景に、アメリカが地政学的な理由から「強い日本」を必要とするようになり、かつて日本を苦しめた逆風が、今や追い風に変わったと分析します89。日本の「失われた30年」の本質を独自の視点で解き明かし、中国経済の将来性、そして日本が再び輝きを取り戻すための具体的な道筋を提示しています210。刊行以来、多くのメディアで取り上げられ、ベストセラーとなっています1112

目次構成と評価

凡例: ★=必読 ー=標準 ↓=相対的低重要度

評価サブタイトル
はじめに日本復活の大チャンスが到来した
第1章新自由主義とは何だったのか?
第2章私はいかにして新自由主義の申し子になったのか
第3章「失われた30年」の本質
第4章中国は投資対象ではなくなった
第5章強い日本の復活
第6章新しい世界にどう備えるか

各章詳細解説

はじめに 日本復活の大チャンスが到来した (★)

  • 概要: 本書の結論が凝縮された導入部です。著者がなぜ「黒子」に徹してきた資産運用業界から一転して筆を執ったのか、その動機が語られます2
  • 主要論点: 核心的なメッセージは「日本は今、数十年に一度のチャンスを迎えている」ということです2713。その根拠として、冷戦後の世界秩序を規定してきた「新自由主義」の崩壊と、それに伴う「ゲームチェンジ」を挙げています2
  • 具体例: 世界経済を「カジノ」にたとえ、これまではアメリカがオーナーとして設定した新自由主義というルールのもとで日本は不利な戦いを強いられてきたが、今後はルール自体が変わり、日本に有利な状況が生まれると説明しています214。
  • 得られる示唆: 本書全体を貫く問題意識と、日本に対する希望的な未来像が提示され、読者の関心を引きつけます。

第1章 新自由主義とは何だったのか? (★)

  • 概要: 本書の議論の前提となる「新自由主義」という概念について、その成り立ちから特徴、そして現代における影響までを包括的に解説します21
  • 主要論点: 新自由主義の三大要素として、「小さな政府」志向、市場原理主義、グローバル化を挙げています815。これが1980年代以降、米英を中心に世界に広がり(ワシントン・コンセンサス)、経済的合理性が最優先される時代を築いたと分析します216。しかし、その結果として生じた格差拡大や社会の分断が、「取り残された者たち」の反乱を招き、システムへの信頼が崩壊したと指摘します215
  • 具体例: 米国のトランプ現象や英国のブレグジット、欧州での極右政党の台頭などを、新自由主義への反動として位置づけています153
  • 得られる示唆: 現代世界で起きている様々な混乱や対立の根源に、新自由主義という共通の思想的背景があることを理解できます。

第2章 私はいかにして新自由主義の申し子になったのか (ー)

  • 概要: 著者が日本の銀行を辞めて渡米し、投資コンサルタントとして成功を収めるまでの個人的な経緯を綴った自伝的な章です176
  • 主要論点: 著者がトランスジェンダーであるというマイノリティとしての経験が、「既存の当たり前」を疑う姿勢を育んだと自己分析しています179。この視点が、1990年代の日本の金融危機を誰よりも早く予測するなどの鋭い分析につながったと語られます18
  • 具体例: 97年のクリスマスに、儲けさせた投資家から感謝の印として当時のアメリカ人の平均年収に相当する5万ドルの小切手が贈られたエピソードなどが紹介されています18
  • 得られる示唆: 本書の分析の根底にある著者の思考法や価値観の源泉を知ることができますが、国際情勢の分析という本筋からはやや外れるため、時間がない場合は読み飛ばすことも可能です。

第3章 「失われた30年」の本質 (★)

  • 概要: 日本経済が長期停滞に陥った「失われた30年」の原因を、独自の見方で分析する章です26
  • 主要論点: 著者は、日本の停滞の根本原因を、アメリカが新自由主義に基づき要求したドラスティックなリストラ(解雇)に対し、日本社会が「賃金カットを受け入れる代わりに誰も解雇しない」という選択をしたことにあると断じています10。この結果、雇用は守られたものの、生産性の低いゾンビ企業が温存され、経済全体の活力が失われたと論じます10
  • 具体例: 冷戦終結後、アメリカから有利なゲームのルールを失い、かつて強みだった日本的経営が逆に足かせとなった過程を解説しています2
  • 得られる示唆: 「失われた30年」に対する通説とは異なる、雇用と賃金のトレードオフという視点から、日本経済の構造的問題を深く理解できます。

第4章 中国は投資対象ではなくなった (★)

  • 概要: 米中関係の構造的変化と、それに伴う中国経済の将来性について、ヘッジファンドの視点から冷徹に分析します26
  • 主要論点: かつては有望な投資先と見なされていた中国が、今や米国にとって最大の戦略的競争相手と位置づけられ、投資対象としての魅力を失ったと指摘します28。アメリカの目論見は外れ、「中国にいいとこどりされた」という後悔から、サプライチェーンの再構築(中国外し)が不可逆的に進んでいると述べます2
  • 具体例: ワシントンの政策サークルから中国に関する議題が消え、中国投資担当者の仕事がなくなっている現状などが挙げられています2
  • 得られる示唆: 世界経済の大きな変動要因である米中対立の現状と、今後の中国経済が直面する困難な見通しを具体的に把握できます。

第5章 強い日本の復活 (★)

  • 概要: 本書のクライマックスであり、なぜ今、日本にチャンスが到来しているのか、その具体的な根拠を多角的に論証する章です26
  • 主要論点: 日本復活の要因として、①団塊世代の労働市場からの完全退場と人手不足による「不可逆的な脱デフレ」と賃金上昇210、②米中対立下でアメリカが日本の地政学的重要性を再認識し、「勝てる席」に座らせてくれること29、③かつて批判された「政財官の癒着」が「大きな政府」の時代には強みになり得ること2、④欧米のような深刻な「分断・対立」を免れた社会の安定性2、などを挙げています。
  • 具体例: 生産性の低さが逆に「のびしろ」となり、失業問題を起こさずに労働移動を促進できる環境が整いつつあると指摘しています2
  • 得られる示唆: これまで日本の弱点とされてきた要素が、世界秩序の転換によって強みに変わりうるという、逆転の発想に満ちた未来像を得ることができます。

第6章 新しい世界にどう備えるか (★)

  • 概要: これまでの分析を踏まえ、今後の世界各国の見通しと、変化の時代に日本という国家、そして私たち個人がどう行動すべきかを提言する結論部です26
  • 主要論点: ヘッジファンドの視点から、日本は「相対的勝者」に、EUは苦しい局面に、そしてアメリカは結局強さを維持すると予測します21。日本は周回遅れで新自由主義的な構造改革に取り組むことになり、市場メカニズムが敵ではなく味方になると述べます18
  • 具体例: 個人としては、この歴史的変化を傍観するのではなく、チャンスとして活かす心構えを持つことの重要性を説いています21
  • 得られる示唆: マクロな国際情勢の分析から、個人レベルでの行動指針まで、具体的で実践的なアドバイスを得ることができます。

核心概念解説

  • 新自由主義の終焉: 1980年代以降の世界を席巻した「小さな政府」「規制緩和」「グローバル化」「市場原理主義」といった思想潮流が、格差拡大や社会の分断といった副作用により支持を失い、歴史的な役割を終えつつあるという本書の基本認識です8153。トランプ現象やBrexitは、この流れを象徴する出来事と位置づけられています15
  • ゲームチェンジ: 新自由主義というルールが崩壊し、地政学的な国家間の競争が経済合理性よりも優先される新たな世界秩序へと移行する大変革を指します28。このルールの変更により、これまでの勝者(グローバル資本や中国など)と敗者(先進国の国内労働者など)の立場が逆転する「入れ替え戦」が始まると著者は主張します239
  • 日本のチャンス: このゲームチェンジの最大の受益者の一人が日本である、というのが本書の核心です。米国が中国に対抗するために「強い日本」を戦略的パートナーとして必要とするため、冷戦期のように日本に地政学的な追い風が吹くというシナリオです89。国内的にも、長年のデフレからの脱却と人手不足が経済の好循環を生み出す好機と捉えられています10

#本書が言及している書籍と資料

本書内で直接的に引用されている書籍の具体的なリストは検索結果から確認できませんでしたが、本書のテーマと深く関連し、比較して読むことで理解が深まる書籍として以下のものが挙げられます。

種別タイトル著者/発表者購入・閲覧URL本書内での扱い
書籍Principles for Dealing with the Changing World OrderRay DalioAmazon.co.jpなどで購入可能本書と同様に「世界秩序の転換」をテーマにしており、覇権国家の交代サイクルという歴史的視点から現代を分析している。本書と並べて論じられることがある19

#本書への言及

媒体タイトル著者等URL言及ポイント
テレビ番組NHKスペシャル「米中対立 日本の”活路”は」NHK著者の齋藤ジン氏自身が出演し、本書の核心である「日本のチャンス」について語り、大きな反響を呼んだ1112
ブログ記事齋藤ジン『世界秩序が変わるとき 新自由主義からのゲームチェンジ』を読んでyota_nakamuranote「今年読んだ本の中でもダントツに良かった」「ニュースを見る目が変わりそう」と絶賛18
ブログ記事本の紹介15冊目:2024年の最高本「世界秩序が変わるとき」齋藤ジン桐島note「わずか1100円で売り出してしまっていいのか?!と思えるほどの貴重な情報が満載」と評価4
ニュースサイト「世界秩序が変わるとき」齋藤ジン著日刊ゲンダイ日刊ゲンダイDIGITAL新自由主義への反乱という背景から、日本復活の道筋を示す経済リポートとして紹介3
書評サイト『世界秩序が変わるとき 新自由主義からのゲームチェンジ』の書評複数のレビュアーブクログ「次にくる主義への言及がない」という批判的な意見も一部で見られる8

書評まとめ

サイト名評価(★5段階・推測)主な論点URL
note (yota_nakamura)★★★★★「今年読んだ本でダントツに良かった」「これからの日本に希望が持てた」「語り口が素晴らしく、強い説得力がある」と絶賛。nd6e3766a3d58
note (hirootani)★★★★★「失われた30年」の本質についての指摘に「とてもスッキリした」。日本が再び脚光を浴びるという未来像に納得感。n65b6ec0cdc14
note (dokushozamurai)★★★★★「2024年の最高本」「わずか1100円で売り出していいのか」と情報の価値を高く評価。日本の勝ち組になるという結論を強調。n7422d6aebf5f
ブクログ (複数ユーザー)★★★☆☆希望的観測との見方や、「次にくる主義への言及がない」点への期待外れ感を指摘する声もある。B0DQ7WQNPM
note (フォレスト出版)★★★★★「『いま俺たちが生きている時代って、そういうことなのね!』という腹落ちがめちゃめちゃ深い」と、時代の構造を理解できる点を評価。n3b2399e9de26

書評要約

  • 肯定的論点: 多くの書評で、本書が「新自由主義の終焉」という明快なフレームワークを用いて複雑な世界情勢をわかりやすく解説している点が高く評価されています18109。特に、日本の「失われた30年」で閉塞感を抱いてきた読者からは、本書が示す「日本の復活」という未来像が「希望が持てる」「スッキリした」と好意的に受け止められています1810。ヘッジファンドのコンサルタントという著者ならではの、地政学と金融を横断する視点が新鮮で、極めて説得力があるとの声が多数です184
  • 否定的論点: 一部の読者からは、新自由主義が崩壊した「次」に来る新しい政治経済システムについての具体的な記述が乏しい、という指摘があります8。「ゲームチェンジ」を謳うのであれば、その先のビジョンまで踏み込んでほしかったという期待外れの念が見られます8
  • 賛否分かれる論点: 本書の根幹である「日本は勝ち組になる」という主張について、多くの読者が希望を見出す一方で、やや希望的観測に過ぎるのではないかと受け取る向きもあります8。また、日本の「政財官の癒着」や「生産性の低さ」といった従来は弱点とされてきた要素を、今後の「強み」や「のびしろ」と再定義する視点は、斬新で評価される一方、楽観的すぎるとも解釈され得ます2

#言及している動画

タイトルURL投稿年要約(400字以内)
【5分で聴く 文春新書】齋藤ジン著『世界秩序が変わるとき 新自由主義からのゲームチェンジ』YouTube2024年文藝春秋の公式チャンネルによる動画。著者自身が出演し、本書の要点を語る。新自由主義的なビジネスモデルが米中対立で崩壊し、アメリカが自らそのシステムを壊そうとしていると解説。この変化の中で日本は構造的に「勝てる国」になるため、その事実を知っておくことが重要だと述べる。トランプ氏は既存システムを壊す役割を担っており、その先に来る新しい世界に備えるべきだと主張している14。
日本が勝てる席に座る!?『世界秩序が変わるとき』を徹底解説【石田衣良『大人の放課後ラジオ』】YouTube2025年作家の石田衣良氏らが本書を解説する番組。アメリカの最大の目標は「中国潰し」であり、そのために極東のパートナーである日本に強くなってもらう必要があると指摘。「日本はこれからカジノの勝てる席に座れる」という本書のメッセージを引用し、今後30年、日本に良い風が吹くという見方を紹介している20。
【5分で聴く♪文春新書】齋藤ジン著『世界秩序が変わるとき 新自由主義からのゲームチェンジ』(祝大増刷!BGMなしバージョン)Spotify2025年文藝春秋の公式Podcast。著者のプロフィールを紹介し、年間数千万円とも言われるニューズレターで提供されるような貴重な情報のエッセンスが本書で披露されていると解説。ソロス氏を儲けさせた実績や、次期トランプ政権の財務長官候補との親交にも触れ、著者の分析の価値の高さを強調している5

推奨読書戦略

本書をより効果的に読み解くための、3つの読書戦略を提案します。

  • 速習コース(結論を素早く知りたい方向け)
    1. はじめに: 本書の核心的なメッセージ「日本にチャンス到来」を掴む。
    2. 第5章 強い日本の復活: なぜ日本が復活するのか、その具体的な根拠を理解する。
    3. 第6章 新しい世界にどう備えるか: 全体のまとめと、未来への提言を受け取る。
      *この順番で読めば、約1時間で本書の最も重要な主張を把握できます。
  • 標準コース(深く体系的に理解したい方向け)
    1. はじめに第1章第3章第4章第5章第6章
    2. 最後に 第2章
      *まず世界と日本のマクロな情勢分析(1, 3, 4章)を読み、本書の結論(5, 6章)を理解した上で、最後に著者自身の背景(2章)を読むことで、分析の根底にある思想や人間性にまで踏み込んで多角的に理解できます。
  • 日本経済集中コース(日本の過去と未来に関心がある方向け)
    1. 第3章 「失われた30年」の本質: まず日本の長期停滞の構造的な原因を理解する。
    2. 第5章 強い日本の復活: 過去の課題が、現在どのようなチャンスに繋がっているのかを学ぶ。
    3. 第6章 新しい世界にどう備えるか: 未来に向けて、日本と個人が何をすべきかを考える。
      *日本の経済と社会に焦点を当て、過去・現在・未来の時間軸で深く考察したい方におすすめです。

理解度チェックリスト

本書の核心的な主張を理解できたか、以下の質問で確認してみましょう。

  • 「新自由主義」とは何か、その主な特徴を3つ説明できますか?215
  • 著者が「新自由主義の時代は終わった」と考える背景には、どのような社会の変化がありますか?153
  • 日本の「失われた30年」の根本原因について、著者は「雇用」と「賃金」の関係をどのように分析していますか?10
  • なぜ著者は「中国はもはや有望な投資対象ではない」と結論づけていますか?28
  • 本書が挙げる「日本の復活」の根拠となる国内的・国際的な要因を、それぞれ説明できますか?2109
  • 新しい世界秩序の中で、アメリカとEUはそれぞれどのような立場になると予測されていますか?21
  • この歴史的なゲームチェンジの中で、私たち個人にはどのような心構えが求められると述べられていますか?21

Recap

『世界秩序が変わるとき』は、世界が「新自由主義の終焉」という歴史的な転換点を迎えていることを喝破し、それが日本に「数十年に一度のチャンス」をもたらすという、力強いメッセージを提示した一冊です23。長年の金融の最前線での経験に裏打ちされた分析は、米中対立という地政学リスクを、日本にとっては追い風であると読み替えます89

「失われた30年」の閉塞感や、未来への悲観論が漂う現代日本において、本書はデータと国際情勢の力学に基づいた新たな希望のシナリオを描き出します。読者に対しては、この変化を傍観するのではなく、構造変化の本質を理解し、新たなルールの中で能動的に行動を起こすことを促しています21。複雑な世界の今を読み解き、未来への羅針盤を得たいと考える、すべてのビジネスパーソンや政策決定者にとって必読の書と言えるでしょう。


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