これからも仕事がある人

これからも仕事がある人

これから仕事がなくなる人と、続けられる人の差は、才能でも努力量でもないと思います。

その違いは、ひとことで言えば「思考の焦点距離の違い」です。

目の前のタスクを細かく見つめる仕事ほど、AIに代替されやすくなります。

一方で、少し引いた視点から「そもそも何を解決しているのか」を考える人は、AIを使いこなす側に回ります。

どの距離で仕事をしているか。それが、これからの仕事のある・なしを分けるのです。

AIやロボットが得意なのは、「どうやるか」がすでに決まっている領域です。

手順が定義され、目的が明確な仕事ほど、どんどん自動化が進みます。

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しかも、それは指示を出す側の人にも及びます。

指示の出し方や判断の基準が明文化できてしまう仕事は、リーダーであってもAIに代替されるのです。

ここでは、そうしたリーダーをA型=手続リーダーと呼びましょう。
A型の仕事は、与えられた目的の中で最短経路を探すことです。
AIは、これをほぼ完璧に模倣できます。

それに対して、「なぜそれをやるのか」という根本から考え直すリーダーがいます。
これがB型=意味設計リーダーです。
つまり、目的そのものを設計する人です。
AIはまだ、この「問いを立てる」領域には到達できていません。
AIやロボットは既存の地図の上をどこまでも走れますが、地図そのものを描き換えることはできないのです。

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この違いを生むのが、思考の抽象度です。
抽象度が低い仕事では「正しい答え」を選ぶことが求められます。
抽象度が高い仕事では「何を問うか」を決めることが仕事になります。
社会はこの抽象度の違いによって、徐々に分業化されていくでしょう。
そして、手続きが定義しやすい領域から順に、AIとロボットに置き換えられていきます。

焦点を変えるとは、タスクを一段引いて「構造」として見ることです。
「この仕事は、どんな前提で成り立っているのか」「そもそも何のためにやっているのか」を考えてみる。
たとえば、単に報告書を作るのではなく、「誰が、どんな意思決定に使うのか」を理解することも焦点距離を変える練習です。
構造の中にある前提や意味を見直すことが、AI時代のリスキリングであり、最小単位の創造行為になります。

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焦点を変える訓練とは、すぐに結果が出るものではありません。
けれど、毎日の業務の中で「目的」と「手段」を少し入れ替えて考えてみるだけでも、思考の方法は変わります。
AIが出した答えをそのまま受け取るのではなく、「なぜその答えが出たのか」「別の問いを立てたら結果はどう変わるか」を考えてみる。
その小さな反射が、AIと共存できる思考習慣になります。

意味を設計する力とは、世界を少し引いた場所から眺める力です。
その力がある人は、AIが生み出す答えの上で、新しい問いを描き続けることができます。

この変化は一気に起こるわけではありません。
だからこそ、自分の仕事に対する焦点距離を少しずつ変え、より高い抽象度で考える習慣を持つことが大切です。
AIが「正しい答え」を示すほど、人間は「どんな問いを立てるか」で価値を発揮するようになります。

そして、その問いを磨き続けられる人こそ、これからもしばらく仕事を続けられる人です。

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