CHOP(チャット指向プログラミング)について:AIとの対話でコードを生み出す

AIの進化、特に生成AIや大規模言語モデル(LLM)の登場により、新しいプログラミングの形が見えてきました。それが「CHOP(チャット指向プログラミング)」です。自然言語でAIに指示を出すと、AIがコードを生成・修正・最適化してくれるスタイルを指します。ソフトウェア開発の現場では、開発者がAIと協働してシステムを作るという未来像が現実味を帯びています。開発スピードを高め、非エンジニアでも技術を活用しやすくなる一方で、コード品質やセキュリティ、開発者の役割の変化といった論点も浮かび上がっています。


AIとの対話でコードを紡ぐ新しい流儀

CHOPは、チャットのような自然言語で要件を伝えると、AIが意図を解釈してプログラムを書いてくれる開発スタイルです。たとえば「この機能のバックエンドを作って」「このコードを読みやすく最適化して」と指示すると、AIがPythonやJavaScriptなどで実行可能なコードを提案します。その後、人がフィードバックを重ねて仕上げていく流れになります。

用語としてのCHOPは、エンジニアのSteve Yegge氏がブログなどで「Chat-Oriented Programming」と表現したことをきっかけに広がり、Tim O’Reilly氏も2025年の論考で「CHOPという新しいバズワードがある」と言及しています。つまり、O’Reilly氏が名付け親というより、Yegge氏の呼び方が実務者のあいだで使われ、O’Reilly氏がそれを取り上げ普及に弾みがついた、という位置づけが実情に近いです。

このスタイルを具体的に体験できる代表的なツールとして、ChatGPT、GitHub Copilot、Google Gemini(旧Bard)、Claudeなどがあります。生成AIは自然言語を理解する力が高まり、コード生成の初期案づくりや既存コードの改良提案までこなせるようになっています。

CHOPの利点は、プロトタイプや小規模ツールの立ち上げをすばやく進められることです。専門的な言語仕様の暗記に頼らず、問題の定義と意図の説明に集中できます。一方で、生成された結果には誤りや脆弱性が含まれる場合があります。レビューやテスト、セキュリティ対策は引き続き人間の責任です。曖昧な指示では期待通りの結果にならないこともあるため、要件の明確化も重要です。


AI とコード生成の系譜

2010年代後半から、コード補完や自動生成を支援するAIツールが登場し、土台が整いました。GitHub Copilot(Codex由来)などの補完ツールは、開発者の手元で次の一手を提案する形で普及しました。

転機は2022年11月のChatGPT公開です。一般利用でも自然言語の指示から動くコードが生成できることが広く知られ、プログラミングの入口が一気に広がりました。2024年以降は「チャットでコーディングする」体験が一般化し、Yegge氏がCHOPと呼び、2025年にはO’Reilly氏が同趣旨の文脈で言及しています。呼び名は新しくても、背後にある流れは段階的に進んできたと言えます。


生成AI 時代のプログラミング哲学と実践

CHOPは従来のプログラミングを完全に置き換えるのではなく、強力に補完します。短いスクリプト作成、API連携の試行、初期プロトタイプの生成などでは効果を発揮します。大規模アーキテクチャ設計、難易度の高いバグ修正、厳格なセキュリティ設計のような領域では、依然として人間の知見が欠かせません。

利点は、開発の立ち上がりが速くなることと、非エンジニアでも手を動かしやすくなることです。課題は、品質・セキュリティの担保と、指示の明確化です。AIは最尤の答えを示しますが、常に最適解ではありません。生成物はレビュー・テスト・検証を通して現実の要件に合わせます。

CHOPが活きる場面として、アイデア検証のプロトタイピング、定型スクリプトの自動化、自然言語での要件記述からの雛形生成、テストコードの自動作成、デプロイやIaCの雛形作成、学習用途などが挙げられます。一方、医療・金融などのミッションクリティカル領域や、厳密なリアルタイム性が必要なシステムでは、従来手法の統制やレビュー体制と組み合わせる運用が現実的です。

今後は、CHOPとAIエージェントの連携が進み、抽象的な目標からタスク分解・実行・評価までを支援するワークフローが一般化する可能性があります。教育面では、文法暗記中心から、AIへの指示力、協働の進め方、生成物の評価・修正力へと重点が移りつつあります。


開発者からビジネス、そして教育まで

開発者の役割は、コード記述に加えて、要件を言語化し、AIの提案を選別し、システム全体の設計や品質・安全性を担保する方向に広がっています。非エンジニア職でも、簡単なプロトタイプを自作して検証する動きが増え、DXの下支えになっています。雇用・教育では、AIを使いこなす素養と、人間にしかできない設計・倫理・戦略の能力が同時に求められるようになっています。

セキュリティと倫理の論点も重要です。SQLインジェクションやXSSのような既知の脆弱性が、生成コードに紛れ込むことがあります。ライセンス順守やバイアスの抑制も含め、人手によるレビュー体制やガイドライン整備が不可欠です。


統計から見える普及の現状

開発現場でAI支援が一般化している傾向は、いくつかの公開調査から確認できます。GitHubは2023年の調査で「開発者の多くがAIコーディングツールを利用・試行している」と報告しています(調査の対象地域や設問によって「92%」などの数値が示されています)。また、GitHub Copilotに関する実験では、特定の課題設定において「タスク完了が約55.8%高速化した」という結果が示されています。これらは、適切なタスクでAI支援を使うと生産性が上がり得ることを示すデータです。ただし、一般化の範囲には注意が必要で、全ての開発作業に同じ効果が出るわけではありません。


未来のソフトウェア開発はどうなるのか?

今後は、より高度な自然言語理解や、問題分解・検証まで含めたエージェントの進化に伴い、CHOPの活用範囲は広がります。開発者は、AIが提案する複数の選択肢を評価し、品質・安全・保守性・コストの観点から設計判断を下す比重が高まります。教育現場でも、AIとの協働設計や評価方法を早い段階から学ぶ動きが広がるはずです。あわせて、セキュリティやライセンス、倫理に関する実務的なルール作りと運用がますます重要になります。

FAQ

Q: CHOP(チャット指向プログラミング)とは、具体的にどのようなものですか?

A: 生成AIやLLMに対して、自然言語(チャット)で要件を伝えると、AIがコードを生成・修正・最適化する開発スタイルです。非エンジニアでも試作や自動化を進めやすくなります。

Q: CHOPは、従来のプログラミングを完全に置き換えますか?

A: 置き換えるというより補完します。短いスクリプトや初期プロトタイプでは強みを発揮しますが、設計判断や安全性の担保には人の知見が必要です。

Q: CHOPの主なメリットは何ですか?

A: 立ち上がりが速く、試行錯誤を素早く回せる点です。アイデア検証や業務の小さな自動化に役立ちます。

Q: 懸念点は何ですか?

A: 生成物の品質とセキュリティです。誤りや脆弱性が入り得るため、レビュー・テスト・ガバナンスが前提になります。

Q: どのようなタスクで特に有効ですか?

A: プロトタイピング、定型スクリプトの作成、自然言語からの雛形生成、テストコードの作成、デプロイやIaCの雛形化、学習用途などです。

Q: 普及状況を示す信頼できるデータはありますか?

A: GitHubの調査では、開発者の多くがAIコーディングツールを利用・試行しているとされます。さらに、Copilotを用いた実験では特定課題で約55.8%の時間短縮が報告されています。いずれも条件付きの結果であり、すべての場面に同じ効果が出るわけではありません。

アクティブリコール

基本理解問題

  1. CHOPという呼び名は誰の議論をきっかけに広がりましたか?
    答え: Steve Yegge氏の呼称がきっかけで広がり、Tim O’Reilly氏も後に論考で言及しました。
  2. CHOPの主要な技術基盤は何ですか?
    答え: 生成AIや大規模言語モデル(LLM)です。
  3. CHOPの主な利点は何ですか?
    答え: 立ち上がりの速さと、試作や自動化を進めやすい点です。
  4. 主な懸念点は何ですか?
    答え: 生成物の品質・セキュリティと、指示の曖昧さによる誤動作です。

参考

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