NotebookLMは「読書代行AI」である──“ノートブック”という名の仮面

NotebookLM(Googleが提供するAIツール)という名前をはじめて聞いたとき、多くの人は「ノートの進化版」を想像するんじゃないでしょうか。

でも、Notebook LMを実際に触ってみると、「ノートを書く」という行為はほぼ存在せず、代わりに「読むAI」の機能が際立っています。

つまり、Notebook LMは“ノートブック”ではなく、読書や資料読みを代行するAIというのが本当の姿なのではないでしょうか。これってちょっとしたトリックなんじゃないかと言う気がします。

名前と実体の乖離:「ノート」というやさしい仮面

Google自身はNotebookLMを「an AI-first notebook」と呼び、AIを前提に設計された新たなノートツールだと紹介しています。
しかし、実際にNotebookLMが行っているのは、ノートを取ることというよりは、資料をアップロードすればAIが要点を抽出し、文脈を整理し、質問に答えるという「知識を再構成する」作業です。
私たちが手でノートを書き、自分の言葉で理解を整理するのに対し、NotebookLMは“読んで理解して提示し直す”アシスタントに近いのです。

NotebookLMという名前にはソフトな印象があり、上手なネーミングだと思うのですが、あえてそういう名前にしている可能性があります。Notebook LMって実態としてはノートブックではなく「本や資料の再構成装置」です。あらかじめさまざまな書籍や学問について学習したLLMをベースとして、個人的に集めたさまざまな資料を参考にしながら回答をする。それをそのまま「これは書籍の新しい形です」とストレートに出してしまったら、結構リスキーです。こういった出版・教育分野などでの著作権リスクを避けるため、あえて“ノート”という表現を使っている可能性もあります。

実態:読書を代行するAI

NotebookLMの裏側には、いわゆるRAG(Retrieval-Augmented Generation:検索強化生成)技術が使われています。具体的には、文書をベクトル(数値化された表現)に変換し、意味的に検索可能な状態にして、生成モデルに最適な部分を渡し、出力するという流れです。
ユーザーは「資料を読む」のではなく、「AIに読ませて質問する」形を取りうるわけです。こうして、知的労働としての読書行為がアウトソーシングされたと言える場面が生まれます。

NotebookLMが行っているのは単なる要約だけではありません。情報を再編成し、質問の意図に応じて文脈を調整して返すという“読む+編集+語る”というプロセスです。人が一冊の本を読んで自分なりの理解を語るように、AIが“機械的な再読”を行っているのです。だから「読書代行AI」という呼び方にも説得力があると思います。

読書という営みの変質

いろいろ言ってますが、Notebook LMの可能性を否定したいわけじゃないんです。ただ、言いたいのは、Notebook LMの先にあるのは、新しいノートテイキング術ではまったくないってことです。Notebook LMがもたらすのは、そっちではなく「読む」という行為そのものの意味の再定義です。

これまでは、読書とはテキストを自分で読み、自分の中で再構成する営みでした。ところがNotebookLMを介せば、その再構成の大部分をAIに任せられてしまう可能性があります。結果として、人間は“再構築された知識”を受け取るだけになりがちです。読書が“体験”ではなく、“アクセス”に変じるのです。

言い換えれば、「知識を持つ」時代から「知識にアクセスする」時代へと少しずつ移行していきつつあります。本を買って自分の棚に置くのではなく、必要なときにAIを通じて知識を取り出す――そのような使い方が自然になっていくでしょう。

「本を読むAI」と「知を再構築するAI」

現時点のNotebook LMは「読むAI」の完成形に近づいています。
しかし、その先にあるのは「知を再構築するAI」です。複数の本や資料を横断し、新しい概念や仮説を生み出す存在です。言わば、本を超えて思考するAI
Notebook LMが本の内容を整理・要約するのに対し、次世代の知的ツールは「複数の本を対話させる」ようになります。AIが「この二冊の言っていることは根底でつながっている」と気づかせてくれる――そんな知の再構築こそが、今後の“読む”の拡張形だと私は考えます。

そして、静かな文化的転換

NotebookLMはノートの進化ではなく、読書の再設計でした。しかしその変化はとても静かに進行しています。なぜなら、Googleはそれを“ノート”と呼ぶことで、「知を読む機械」が社会に受け入れられるための緩衝材としているからです。

ただ、ここで始まったのは単なるツールの進化ではありません。本という文化の変質、知識という営みの再編、そして「読む」という行為の再定義なのです。

NotebookLMとは、「読書代行AI」という言葉を直接使わずに、それを私たちの手の中に滑り込ませていく存在なのかもしれません。

参考

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