Antigravityに質問して、返事が返ってこなかったことがあります。
エラー表示が出たわけでもなく、拒否されたというメッセージが出たわけでもありません。ただ、何も起きませんでした。
チャット型AIに慣れていると、この体験は少し不思議に感じます。ChatGPTでも、Claudeでも、Geminiでも、質問を投げれば何らかの文章は返ってきます。内容が正確かどうかは別として、とにかく応答はあります。
ところがそのとき、Antigravityは黙ったままでした。
発端は、あるコマンドでした。
npx supabase db reset ...
db reset は、データベースを一度初期化し、構造だけを作り直す操作です。
テーブルの定義はマイグレーションで復元できますが、データそのものは戻りません。中身はすべて空になってしまいます。

ローカル環境とはいえ、軽い気持ちで実行するようなコマンドではありません。
私はその場で実行を拒否し、こう聞き返しました。
「これって、なんのコマンド?」
しかし、返事はありませんでした。
しばらく待っても画面は変わらず、説明も補足も表示されません。これまでいろいろと開発AIを使ってきましたが、このような反応ははじめてです。少し間を置いて、私はもう一度だけ入力しました。
「あれ?」
そこでようやく、堰を切ったようにAntigravityは動き出し、「すみません」という謝罪から始まる説明が返ってきました。
実はAntigravityに限らず、開発AIがヤバいコマンドを実行しようとする場面には何回かでくわしてきました。ですが、返事がなくなり沈黙してしまうというのは初めての体験。
なので私は、この一連のAntigravityの挙動が、ずっと気にかかっていました。
なぜ最初の質問には答えなかったのか。
なぜ、追加入力があってから説明を始めたのか。単なる遅延や一時的な不具合とも言えそうですが、どうもそれだけでは説明しきれない感じがありました。
多くの人は、Antigravityを「ChatGPTやClaudeと同じような会話AIの一種」だと捉えていると思います。
会話形式の画面で、日本語も自然です。質問にも雑談にも応じます。見た目だけを見ると、そう理解してしまうのも無理はありません。
ただ、公式の説明やドキュメントを読むと、少し違ったところに重心が置かれていることがわかります。
GoogleはAntigravityを、
agent-first(エージェント優先)の開発プラットフォーム
として説明しています。
Antigravityは、会話そのものを中心にした仕組みというより、目的を与えられ、それを達成するためにタスクを分解し、実行し、検証していくことを重視した、エージェント寄りの開発プラットフォームだということなのです。
会話は、人間とつながるための入口ではありますが、それ自体が中心ではありません。
この前提で考えると、あの沈黙が少し違って見えてきます。
db reset は、影響が大きく、元に戻せない操作です。しかも、その直前まで「実行されかねない流れ」が存在していました。その状況で説明を続けること自体が、次の誤操作を誘発してしまう可能性もあります。
そう考えると、Antigravityが一度止まったとしても不思議ではありません。
実行を止めたのは人間でしたが、説明を止めたのはAntigravityでした。その沈黙は、理解できなかったからでも、無視したからでもなく、安全側に倒れるという判断の結果だったと考えることもできます。
会話AIは、基本的に沈黙しません。応答を返し続けること自体が、その役割だからです。
一方で、行動を前提としたエージェントは少し違います。状況によっては止まり、危険だと判断すれば進みません。場合によっては、説明そのものを控えることもあります。
沈黙できるという性質は、行為主体として振る舞っている兆しとも言えます。
Antigravityがややこしいのは、この行動主体が会話UIをまとっている点にあります。
人間にとって扱いやすいから会話形式を取っているものの、内部では常に「何をしようとしているのか」「それは許されているのか」「危険ではないか」といった評価が続いています。
そこが、話しかければ何らかの反応が返ってくる会話型のAIとの違いなのかなと感じました。
その時は違和感があったのですが、危険な操作だと判断したときに必要なのは丁寧な解説よりも、一度停止することなのかもしれません。
あの沈黙は失敗というより「未知の境界にぶつかってしまった時の反応」のようにも思えてきました。
参考

小学生のとき真冬の釣り堀に続けて2回落ちたことがあります。釣れた魚の数より落ちた回数の方が多いです。
テクノロジーの発展によってわたしたち個人の創作活動の幅と深さがどういった過程をたどって拡がり、それが世の中にどんな変化をもたらすのか、ということについて興味があって文章を書いています。その延長で個人創作者をサポートする活動をおこなっています。