洗車後の拭き上げでは、タオルを大きく滑らせなくてもよい。
もちろん、滑らせながら拭く方法が間違いというわけではない。大判タオルをボンネットやルーフに広げ、スーッと引けば、広い面の水滴を短時間で回収できる。洗車動画でもよく見る方法であり、見た目にも分かりやすい。
しかし、それは主に時間短縮のための方法である。
拭き上げの目的は、タオルを動かすことではない。水を取ることである。十分な吸水力を持つタオルであれば、水滴に触れた瞬間に水は吸われる。ならば、タオルを長い距離で滑らせて水をこすり取る必要はない。
時間よりも塗装面への低リスクを優先するなら、タオルは滑らせるより、置いて吸わせればよい。
ここでは、タオルを置いて吸水させる方法を「置き吸い」、細部で軽く当てて吸水させる方法を「ポンポン拭き」と呼ぶ。
洗車動画では、なぜタオルを滑らせるのか
洗車後の拭き上げというと、大判の吸水タオルをボンネットやルーフに広げ、スーッと滑らせて水を取る場面を思い浮かべる人は多い。
実際、洗車動画でもその方法はよく出てくる。
タオルを置く。
そのまま引く。
水滴が一気に消える。
この動きは、見た目にとても分かりやすい。タオルの吸水力も伝わりやすい。広い面を一度で処理できるので、作業が速く見える。
実際に、滑らせ拭きには利点がある。
広い面を短時間で処理できる。
水ジミになる前に水を回収しやすい。
大判タオルの面積を効率よく使える。
洗車作業の時間を短縮できる。
特に、屋外で水道水を使って洗車している場合や、夏場のように乾燥が早い状況では、時間短縮は大きな意味を持つ。水が乾く前に処理する必要があるからだ。
だから、滑らせ拭きそのものが悪いわけではない。
ただし、それは「速く仕上げるための方法」であって、「必ず必要な方法」ではない。
拭き上げの本質は、こすることではなく、水を取ること
拭き上げという言葉には、どこか「拭く」「こする」という感覚が含まれている。
しかし、洗車後の拭き上げで本当に必要なのは、塗装面をこすることではない。水滴を取ることである。
水滴を取る方法は、タオルを滑らせることだけではない。
十分に吸水するタオルであれば、水滴に触れた瞬間に水を吸う。大判の吸水タオルなら、タオルを置いただけで、その下にある水滴はかなり吸われる。
つまり、タオルはワイパーのように使わなくてもよい。
水滴にタオルを触れさせる。
吸わせる。
持ち上げる。
それだけでも、拭き上げは成立する。
この考え方をすると、拭き上げは「水をこすり取る作業」ではなく、「水を吸わせる作業」になる。
拭き傷リスクは、異物・圧力・移動距離で考える
拭き傷のリスクは、タオルが柔らかいか硬いかだけで決まるわけではない。
もちろん、タオルの柔らかさは大事である。硬くなったタオルや、繊維が寝てしまったタオルを塗装面に使い続けるのは避けたほうがよい。
しかし、それ以上に重要なのは、タオルと塗装面の間に何があるかである。
タオルと塗装面の間に砂や細かい汚れがある。
そこに圧力がかかる。
その状態で横方向に長く動く。
この条件が重なるほど、拭き傷のリスクは上がる。
かなり単純化すれば、拭き傷リスクは次のように考えられる。
拭き傷リスク ≒ 異物 × 圧力 × 移動距離
タオルを滑らせるということは、このうち「移動距離」を増やすということでもある。
もちろん、洗車後のボディが十分にきれいで、タオルも清潔で、圧力も小さければ、大きな問題にならないことも多い。
しかし、個人洗車で少しでも低リスクに寄せたいなら、移動距離を減らすという考え方は合理的である。
タオルを大きく滑らせない。
必要以上にこすらない。
水滴に触れさせて吸わせる。
これが、置き吸いとポンポン拭きの基本になる。
置き吸いとは何か
置き吸いとは、水滴のある面にタオルを置き、水を吸わせてから持ち上げる拭き上げ方法である。
タオルを滑らせて水を集めるのではない。水のある場所に、清潔な吸水面を触れさせる。
向いている場所は、大きくて、比較的きれいな面である。
ボンネット。
ルーフ。
フロントガラス。
サイドガラス。
ドア上部。
リアゲート上部。
こうした面は、タオルを広げて置きやすい。水滴にタオルを触れさせやすい。
置き吸いの基本は、次の流れである。
1. 大判タオルを広げる
2. 水滴が残っている面にそっと置く
3. タオル自身の重さで水を吸わせる
4. シワや浮きがあれば、必要最小限だけならす
5. 置いた範囲の水が吸われたら、タオルを持ち上げる
6. 残った水滴があれば、面を変えてもう一度置く
このとき、タオルを強く押しつける必要はない。タオルを長く引きずる必要もない。
目的は、タオルを動かすことではない。置いた範囲の水滴を、できるだけ吸わせることである。
シワをならすとは、吸水面を水滴に確実に当てること
置き吸いでは、タオルを置いたあと、少しだけタオルを動かすことがある。
これを「シワをならす」と表現している。
ただし、これはタオルを滑らせて水を拭き取るためではない。
タオルを置いたとき、布にシワや浮きができることがある。その部分は、塗装面やガラス面の水滴にタオルが触れていない。
タオルが触れていなければ、水は吸えない。
だから、タオルを置いたあと、必要最小限だけ軽く動かし、シワや浮きをならす。目的は、タオルを移動させることではない。置いた範囲の水滴に、吸水面を確実に当てることである。
タオルを置いた範囲の水を、できるだけ吸わせる。
これが、置き吸いにおける「シワをならす」の意味である。
ポンポン拭きとは何か
ポンポン拭きは、残った水滴にタオルを軽く当てて吸わせる方法である。
「ポンポン」といっても、実際には叩くのではない。水滴に軽く触れて吸わせるだけでよい。
置き吸いが大きな面に向いた方法だとすれば、ポンポン拭きは細部や戻り水に向いた方法である。
たとえば、次のような場所に向いている。
サイドミラー下。
ドアハンドル下。
エンブレム周辺。
グリル周辺。
テールランプ周辺。
リアゲート周辺。
給油口まわり。
ドアの隙間。
こうした場所は、水が残りやすい。ブロワーで水を飛ばしても、あとから水が戻ってくることがある。
そこに大判タオルを滑らせる必要はない。
水滴が見えたら、タオルのきれいな面を軽く当てる。
押し込まず、吸わせる。
必要なら面を変える。
汚れやすい場所なら、別のタオルに切り替える。
ポンポン拭きは、タオルでこする作業ではない。水滴に吸水面を当てる作業である。
置き吸いとポンポン拭きの使い分け
置き吸いとポンポン拭きは、同じ考え方に基づいている。
どちらも、タオルを大きく滑らせない。
水滴に吸水面を触れさせる。
水をこすり取るのではなく、吸わせる。
違いは、使う場所である。
置き吸い:
ボンネット、ルーフ、ガラス、ドア上部などの広い面に向く
ポンポン拭き:
ミラー下、エンブレム周辺、ドアハンドル下などの細部に向く
大きな面は、タオルを広げて置く。
細かい場所は、タオルのきれいな面を軽く当てる。
このように分けると、拭き上げでタオルを大きく滑らせる場面はかなり減る。
置き吸いとポンポン拭きの利点
置き吸いとポンポン拭きの最大の利点は、タオルを大きく動かさないことである。
塗装面との接触移動が少ない。
強くこすらない。
汚れた面を広く引きずりにくい。
水滴単位で処理できる。
細部の戻り水に対応しやすい。
高吸水のタオルであれば、水滴に触れた瞬間に水は吸われる。であれば、水を取るためにタオルを何十センチも滑らせる必要はない。
特に個人洗車では、業務洗車のように1台を最短時間で仕上げる必要はない。
時間を少し使えるなら、タオルの移動距離を減らすことができる。これは、個人洗車ならではの利点である。
整流リンスとブロワーで、タオルの仕事を減らす
置き吸いとポンポン拭きは、洗車後に大量の水滴が残った状態よりも、あらかじめ水を減らしておいた状態で効果が高い。
そこで重要になるのが、整流リンスとブロワーである。
整流リンスで、水を面として流す。
ボディ上の無駄な水滴を押し流す。
そのあと、ミラー、グリル、エンブレム、ドアハンドル周辺などの隙間水をブロワーで飛ばす。
こうすると、タオルが処理する水の量はかなり減る。
タオルは、大量の水を抱え込む道具ではなく、残った水滴と薄い水膜を回収する道具になる。
この状態なら、過剰な吸水量は必要ない。
必要なのは、残った水滴に触れた瞬間に吸うこと。そして、そのタオルを軽く正確に扱えることである。
拭き上げ全体の流れ
置き吸いとポンポン拭きを使うなら、拭き上げ全体は次のように組み立てるとよい。
1. 整流リンスで、ボディ上の水をできるだけ流す
2. ブロワーで、隙間や細部の水を飛ばす
3. 大判タオルで、広い面を置き吸いする
4. 残った水滴を確認する
5. 細部の戻り水をポンポン拭きで吸わせる
6. 下部や汚れやすい場所は別タオルに切り替える
7. 使用後のタオルは用途ごとに分けて管理する
図式化すると、こうなる。
水を減らす工程:
整流リンス
↓
ブロワー
水を取る工程:
置き吸い
↓
ポンポン拭き
汚染を防ぐ工程:
タオル分離
↓
洗濯・乾燥
拭き上げをタオルだけで完結させようとしない。リンスとブロワーで水を減らしてから、タオルで残りを吸わせる。
この順番にすると、タオルを大きく滑らせる必要はさらに小さくなる。
置き吸いに向くタオル
置き吸いとポンポン拭きには、タオル選びも重要である。
ただし、単純に「厚いほどよい」「重いほどよく吸うからよい」と考えないほうがよい。
向いているのは、高吸水で軽く扱えるタオルである。私の場合は、片面のツイストパイルが、いまのところコスパもよく最高だと考えている。
ツイストパイルは、水滴に触れた瞬間に水を引き込みやすい。水を吸う速度が速く、置き吸いとの相性がよい。
そして、片面仕様であることも扱いやすさにつながる。
片面ツイストパイルは、両面にパイル地を持つダブル構造のタオルより軽い。同じようなサイズで比べれば、軽いぶん広げやすい。置きやすい。持ち上げやすい。シワや浮きをならしやすい。
置き吸いでは、タオルをボディ上に置き、水を吸わせ、また持ち上げる。この一連の動作では、タオルが軽いほど扱いやすい。
逆に、分厚い吸水タオルは、吸水量だけを見れば優秀である。しかし、分厚く、重く、濡れるとさらに重くなる。
タオル自身が重いと、置く、ならす、持ち上げるという動作が難しくなる。大判であれば、端が垂れやすくなり、地面に触れるリスクも上がる。
整流リンスやブロワーで水を減らしているなら、そこまで大きな吸水容量は必要ない。必要なのは、残った水滴をすばやく吸い、狙った場所に軽く扱えることである。
だから、置き吸いには、分厚いダブル構造よりも、軽くて広い片面ツイストパイルが向いている。
置き吸いに向くタオルの条件
置き吸い用のタオルに求める条件は、次のようになる。
置き吸いに向くタオル:
・片面ツイストパイル
・大判
・軽い
・吸水速度が速い
・水滴に触れた瞬間に吸う
・広げやすい
・持ち上げやすい
・濡れても重くなりすぎない
・シワや浮きをならしやすい
・定期更新しやすい価格
吸水量だけを見れば、分厚いダブル構造のタオルは強い。
しかし、置き吸いでは吸水量だけでなく、取り回しが重要になる。
水を大量に抱える力より、必要な場所に軽く置けること。
分厚さより、広げやすさ。
重さより、扱いやすさ。
この基準で選ぶと、片面ツイストパイルの大判タオルが有力になる。
吸水量が多ければ多いほどよいわけではない
吸水タオルというと、より厚いもの、より重いもの、より大量に水を吸うものが高性能に見えやすい。
しかし、置き吸いでは、吸水量が多ければ多いほどよいわけではない。
整流リンスとブロワーで水を減らしてから拭き上げるなら、タオルに求められるのは、大量の水を抱える能力ではない。
必要なのは、残った水滴に触れた瞬間に吸うこと。
そして、軽く扱えること。
過剰な吸水量より、軽さと面積。
過剰な厚みより、取り回し。
両面の分厚さより、置いた場所に確実に当てられること。
置き吸いでは、この考え方が重要になる。
注意:置き吸いなら何でも安全というわけではない
置き吸いとポンポン拭きは、タオルを大きく滑らせないぶん、低リスクに寄せやすい方法である。
しかし、万能ではない。
まず、強く押しつけないこと。タオルを置くときは、タオル自身の重さで水を吸わせるくらいでよい。強く押しつけると、もし微細な異物があった場合、それを塗装面に押し込むことになる。
次に、砂や汚れが残っている場所では使わないこと。洗車後でも、ドア下部、リアバンパー周辺、ステップ付近などには汚れが残りやすい。こうした場所に使ったタオルを、ボンネットやルーフに戻してはいけない。
また、タオルを地面に触れさせないことも重要である。大判タオルは、濡れると重くなり、端が垂れやすい。地面に触れたタオルは、ボディ用としては終了と考えたほうがよい。
同じ面を使い続けないことも大切である。タオルは面を変えながら使う。少しでもザラつき、砂感、汚れ、臭い、硬化があれば、上面用からは外す。
置き吸いは、タオルを動かさないから安全なのではない。
清潔なタオルを、必要最小限の動きで使うから低リスクなのである。
滑らせ拭きを否定する必要はない
ここまで、タオルを滑らせなくてもよいと書いてきた。
しかし、滑らせ拭きを否定する必要はない。
滑らせ拭きは、速く仕上げるには合理的な方法である。特に屋外で乾燥が早い場合、大きな車を短時間で仕上げたい場合、使えるタオルが限られている場合には、滑らせたほうがよいこともある。
問題は、滑らせ拭きを唯一の正解だと思い込むことである。
拭き上げの目的は、水を取ることだ。
水を取る方法は、ひとつではない。
速さを優先するなら、滑らせ拭き。
低リスクを優先するなら、置き吸いとポンポン拭き。
どちらが絶対に正しいという話ではなく、何を優先するかの違いである。
個人洗車で、整流リンスやブロワーを使い、十分な吸水タオルを用意できるなら、あえてタオルを大きく滑らせない拭き上げを選べる。
実践:置き吸いとポンポン拭きで仕上げる
ここまでの内容を、実際の作業手順としてまとめる。
まず、洗車後に整流リンスで水をできるだけ流す。水を強く散らすのではなく、水を面で流して、ボディ上の水滴を減らす。
次に、ブロワーを使う。ミラー、グリル、エンブレム、ドアハンドル、テールランプ、リアゲート周辺など、戻り水が出やすい場所の水を飛ばす。
そのあと、大判の片面ツイストパイルタオルを使う。ボンネットやルーフ、ガラスなどの大きな面にタオルを置く。大きく引かず、水を吸わせる。必要なら、シワや浮きをならす程度にだけ軽く動かす。
タオルを持ち上げ、残った水滴を確認する。大きな面に残った水は、再び置き吸いで処理する。
細部に残った水滴は、ポンポン拭きで吸わせる。ミラー下、エンブレム周辺、ドアハンドル下などは、タオルを滑らせるのではなく、軽く触れさせて吸わせる。
下部やステップ付近、汚れやすい場所は、別のタオルに切り替える。上面用のタオルを下部に使い、そのまま上面に戻すことはしない。
使用後のタオルは、用途ごとに分けて管理する。ボディ上面用、残水回収用、ドア内側やステップ用を混ぜない。
この流れなら、拭き上げでタオルを大きく滑らせる必要はほとんどない。
タオル選びより、タオルの使い方が大事になる
洗車用品を選んでいると、もっと吸うタオル、もっと柔らかいタオル、もっと高級なタオルが気になってくる。
もちろん、良いタオルを使う意味はある。
しかし、置き吸いとポンポン拭きでは、タオルの性能だけに頼らない。
タオルを清潔に保つ。
上面用と下部用を分ける。
タオルを大きく滑らせない。
水滴に触れさせて吸わせる。
吸水力が落ちたり硬くなったタオルは、早めに役割を下げる。
このほうが、単に高級タオルを買うより効果が大きい場合がある。
十分に吸水する片面ツイストパイルの大判タオルを、清潔に使い、早めに更新する。これでかなりよい。
**
洗車後の拭き上げで、タオルを大きく滑らせなくてもよい。
滑らせ拭きは、速く仕上げるには合理的な方法である。洗車動画でよく見るのも、短時間で広い面の水を取れて、見た目にも分かりやすいからである。
しかし、拭き上げの本質は、タオルを動かすことではない。水を取ることである。
十分に吸水するタオルを使えば、水滴に触れさせるだけで水は吸われる。ならば、時間をかけられる個人洗車では、タオルを置いて吸わせるという選択ができる。
置き吸いは、大きな面にタオルを置いて水を吸わせる方法である。
ポンポン拭きは、細部や戻り水に軽くタオルを当てて吸わせる方法である。
どちらも、タオルを大きく滑らせない。
塗装面との接触移動を減らす。
水をこすり取るのではなく、吸わせる。
この方法に向いているのは、高吸水で軽く扱えるタオルである。私の場合は、片面のツイストパイルが、いまのところコスパもよく最高だと考えている。分厚く重いダブル構造のタオルより、軽く、広げやすく、持ち上げやすいタオルのほうが扱いやすい。
拭き上げは、こする作業ではない。
水を吸わせる作業である。
その前提に立つと、タオルを滑らせない拭き上げが見えてくる。
(了)
深水英一郎

小学生のとき真冬の釣り堀に続けて2回落ちたことがあります。釣れた魚の数より落ちた回数の方が多いです。
テクノロジーの発展によってわたしたち個人の創作活動の幅と深さがどういった過程をたどって拡がり、それが世の中にどんな変化をもたらすのか、ということについて興味があって文章を書いています。その延長で個人創作者をサポートする活動をおこなっています。