AIは目的を決められない——最適化の前に、何を目指すのか:AIファシリテーション論[#02]

AIは、目的を与えられれば、その達成方法を考えることができる。目標を細かく分け、必要な作業を並べ、優先順位をつけ、途中で計画を修正する。条件が明確であるほど、AIは効率よく答えを作る。

では、目的を決めるところまでAIに任せられるのだろうか。

じつは、AIは目的の候補も作れる。「この事業で何を目指すべきか」と尋ねれば、売上の増加、利用者の拡大、継続率の改善、運営費用の削減といった目標を提案するだろう。その中から状況に合うものを選び、数値目標に変換させることもできる。

その意味では、「AIは目的を決められない」という言い方は正確ではない。AIは目的らしいものを生成できるし、複数の候補を比較して、最も合理的に見えるものを推薦することもできる。

それでも、目的を生成することと、その目的を目指す価値があると決めることの間には、大きな隔たりがある。

AIは測りやすいものを改善する

あるサービスの問い合わせ対応を改善するとする。AIに相談すれば、返答までの時間を短くする、少ない人数で多くの問い合わせを処理する、解決率を上げるといった目標が示されるだろう。

返答時間を現在の半分にするという目標を選べば、AIは業務を分析し、定型的な質問を自動化し、担当者へ振り分ける条件を作る。改善の結果も数字で確かめられるため、目標として扱いやすい。

ところが、返答時間を短くすることが、問い合わせ対応をよくすることと同じだとは限らない。早く返答するために定型文が増え、利用者が本当に困っていることを読み取れなくなるかもしれない。処理件数を増やすほど、複雑な相談に時間をかけにくくなる可能性もある。

ここで起きているのは、AIの失敗ではない。AIは与えられた目標を正しく処理している。問題は、人間が「返答時間」という測りやすい数字を、問い合わせ対応の価値そのものと取り違えたことにある。

数字は、目的の達成度を確かめるために必要である。しかし、数字で測れるものだけを目的にすると、測りにくい価値が見えなくなる。

利用者が自分の問題を理解してもらえたと感じたか。担当者が無理なく仕事を続けられるか。短い返答で終わらせず、再発を防ぐところまで問題を解決できたか。こうした価値は、返答時間や処理件数ほど簡単には測れない。

AIは複数の指標を扱える。人間が条件を与えれば、速度と満足度、費用と品質の釣り合いを考えさせることもできる。それでも、どの価値をどれだけ重く見るのかは、計算を始める前に決めなければならない。

最適化は、犠牲を決める

目的を決めるということは、望ましい結果を選ぶだけではない。そのために、何を諦めてもよいかを決めることでもある。

速度を優先すれば、丁寧さが失われるかもしれない。費用を減らせば、担当者の負担が増えるかもしれない。一人ひとりに深く対応すれば、全体の処理件数は減るかもしれない。

AIは、こうした得失を整理できる。条件ごとの結果を予測し、複数の案を比較することもできる。しかし、どの損失なら受け入れられるのかは、効率だけからは決まらない。

問い合わせ対応を単なる費用と考えるのか、利用者との関係を作る場所と考えるのかによって、目指すべき状態は変わる。これは処理方法の違いではなく、その仕事を何だと考えるかの違いである。

AIに目的の設定を任せるときも、AIは人間が与えた状況、指標、一般的な価値観をもとに候補を作っている。何の前提もなく、自ら価値を生み出しているわけではない。

したがって、人間が目的を指定しなかったからといって、価値判断が消えるわけではない。明示されなかった価値判断が、AIの提案や測定しやすい数字の中へ隠れるだけである。

目的は正当化されなければならない

AIが提案した目的に対して、人間は「なぜ、それを目指すのか」と尋ねなければならない。

返答時間を短くするのは、待たされる利用者を減らすためなのか。それとも、人件費を削減するためなのか。同じ数値目標でも、理由が違えば、採用すべき方法や許容できる副作用は変わる。

AIは、この問いに対する説明も作れる。しかし、説明が作れることと、その説明が人間にとって正当であることは同じではない。

目的を正当化するには、その目的によって利益を得る人だけでなく、不利益を受ける人も考える必要がある。目標が達成された世界を、本当に望ましいと思えるかを考えなければならない。

これは、AIには目的を提案させるべきではない、という話ではない。むしろAIを使えば、自分では思いつかなかった目的や、見落としていた得失を発見できる。目的を選ぶための材料は、以前より豊かになる。

ただし、材料が増えても、選択そのものがなくなるわけではない。

AIは、目的の候補を作り、その達成方法を設計し、結果を予測できる。しかし、なぜその目的を目指すのかを最終的に決めることはできない。

最適化を始める前に、何をよい状態とみなすのかを決める必要がある。その判断をAIの提案に委ねることはできても、委ねると決めた責任まで消えるわけではない。

AIは目的を生成できる。

しかし、その目的を目指す価値があると認め、結果を現実の中で引き受けるのは人間である。

(了)


深水英一郎

Scroll to Top